千種の抹茶茶碗3

野中春清・総織部

先週末に出掛けた桑山美術館の「花見茶会」で席入りを待つ間、中庭を散策した。少し前の雨で濡れた足元の苔が、艶やかな緑色をしていた。その地面に直径30センチほどの総織部の皿が埋め込んであった。
そこへ桜吹雪が舞い落ち、雨上がりの柔らかな日が差すと、楚々とした美しさを感じた。皿は、どなたのお作か知らないが、贅沢な庭造りと思った。
織部釉薬と技法の種類が多い上に、意匠の自由さから、好みがあると思う。写真は野中春清氏の総織部茶碗。温かみがあり、今くらいの春に楽しみたい。これを使うときは、淡い火色を帯びた志野茶碗を取り合わせる。そうした自分の好みが庭の景色に感じられて、皿を庭に埋め込んだ方に色々尋ねてみたくなった。
野中春清氏は、特に関東地方の茶人に好まれたと聞いた。五島美術館の陶芸教室で講師をされた。(陶芸教室が今もあるかは知らない)そのせいか、重要文化財、鼠志野茶碗「峯紅葉」写しを作られた。身近にあり、よく観察されたのかも知れない。
去年の愛知万博特別企画展「桃山陶の華麗な世界」の後期に「峯紅葉」は展示された。それが見たくて瀬戸の愛知県陶磁資料館へ出掛けた。私には春清氏の写しの方が洗練されているように思えた。桃山時代と昭和の技術を比べては、おかしなことになるけれど、工芸美を伝承し、更に発展させた功績は大きいと思う。